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 今年に入ってから甘鯛(グジ)の“外れ”が続いた。どうも市場に出てこな
い。また,いわゆる日本料理屋なる店で食べた甘鯛は桜蒸しだろうと若狭焼き
だろうと,どうしてこんなもので金を取ろうという気になるのか,社会心理学
的研究を要するたぐいの代物であった(まぁ,私が入る店が酷すぎるからなの
だが)。

 だが先日ようやく,まともな赤甘鯛を手に入れることができた。完全に旬を
外れてはいるし,また一般に赤甘鯛の評価は白甘鯛より低いが,まだ産卵期に
はなっておらず,何より新鮮で,味はなかなか濃厚であった。

 身は昆布締めと蕪蒸しにした。尾身は椀種。カブトとカマは骨蒸し。蕪は春
蒔きのものが出回ってはいる(勿論,秋蒔きの蕪の方が旨い)が,関東のロク
でもない蕪しか手に入らなかった。所詮,関東ローム層では旨い蕪ができぬの
だから仕方がない(尤も,それ以前に,肥料やりすぎの促成栽培では,どんな
にいい土だろうと,あの臭くていがらっぽい蕪しか出来ないだろう)。が,そ
れを補って余りある甘鯛であった。

働けるだけ食わせろ,甘鯛