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今井さん、ismの皆さん御晩です。北方民族をフィールドワークする神
山です。今井さん、私の愛してやまない街、キッチュであることこの上な
き、楽しい迷宮、薄野を取上げてくださり感謝いたします。
> 札幌という街には名物が三つある。──風俗,サラ金,そして札幌ラーメン
> だ。
薄野こそは、われらが周辺革命の解放拠点である。
エロスと美こそは、マルクーゼやアドルノに聞くまでもなく、人間解放
の達成された姿である。薄野には、美があふれている。カジノバーの看板
はわれわれの目を楽しませる。いわずもがな、エロスも溢れかえっている
。どの瞬間を取ってもどこかで裸の男女がアイしあっている。薄野は、マ
ルクーゼも読まない大衆が革命を実践しているのである。
そして、この革命が貨幣による革命として、革命の反対物を前提してい
ることを日々経験しているのである。
サラ金!農協と自治体を最大の産業とし、内地の百貨店に支配されるこ
の地では、金融とはサラ金なのです。
札幌は日本で最もサラ金業者の多い都市であるという(金融関係者談)。
ホステスさん用ローン*、学生用ローンのチラシに飛びつくなと講義で
は注意しております。
* ホステスさんは、時給は2000円以上ですが、不安定
就労層です。キャバクラの場合、給料は、月に2回現金
で支給され、たいてい、少しでも遅刻すると30分ごとに
5万円という罰金が課せられます(「私的立法」)。
ラーメン!昭和30年代に、道内のとある食堂で、食材に困って、味噌汁
に、帯広ホルスタインのバターと、「とうきび」(内地でいう玉蜀黍)、
太いシナそばの麺をいれたのが、一説によれば札幌ラーメンのはじまりと
いう。
では、今井さんのラーメン体験を伺いましょう。宮田さんの案内した店
は、たぶん、すすきの0番地のスナックでしょう。そのあと、ですね。
> だが,酒を飲んだ
> 後で空きっ腹だと,何か食べたくなるのが人情である。
> そんな時に北海道大学の唐渡さんが“観光客は行かない,地元のヤツしか知
> らないラーメン屋があるんだ。
私は、ヂモティですが知りません。
>札幌で一番うまいラーメン屋だ。そこに行かな
> いか”と言ってくれた。渡りに船とはこのことだ。私はかの有名な札幌ラーメ
> ンを食べるのは初めてだったから,期待に胸が膨らんだ。
> こうして,唐渡さんが,私,浅川さん,小西さん,前畑(憲子)さん,今野
> さん(立教の研究生)を引き連れて路地裏のラーメン屋に連れて行ってくれ
> た。なるほど穴場的な店だ。他に形容のしようがない。
豪華メンバー。
> 出てきたラーメンを見て驚いた。漆黒のつゆのなかにぶっとい麺が泳いでい
> る。──“一体この物体は何なんだ”。興奮のあまり私の鼓動は高まり,宇津
> 救命丸をアペリティフに飲もうと思ったほどだ。私は恐る恐るラーメンを口に
> した。
> これはもう“贅沢”の一言だった。甘いでもなく塩っぱいでもなく辛いでも
> なく,舌のあらゆる細胞を魅了するたっぷりの醤油。惜しげもなくふんだんに
> 使われたカン水。尽きることなく味覚を刺激する味の素。──そんな高級食材
> の数々に埋もれて,至福の一時を味わった。
> 私はこんな贅沢な経験をしたことがなかったので,ただもうそれだけで圧倒
> されてしまい,正直に言うと,微妙な味はよく判らなかった。だがそもそも料
> 理を楽しむのに,細かな味の違いなどは判らなくてもよいのだ。そんなことは
> 俗物のやることだ。総てをありのままに受け容れよう。この店では客は,思う
> 存分,ゴージャスな気分を堪能すればいいのである。
北海料理の真髄は、これ、素材をどかんと乗せて使うところにあるなり
。寿司なら、生の鮭の肉にて、酢飯を包む、と言ふやうに。食材のシャッ
フルも、いとをかし。すべてを受け容れよ。北の神も微笑むであらう。
> 確かに,一見すると,この麺にはカン水の味しかしない。だが,それが一体
> なんだと言うのか。例えば,旬の上海渡蟹はそれだけで主役なのである。最高
> の素材の前では,他の一切のスパイスは恐れをなして消え失せてしまう。他の
> ありとあらゆる調味料は控え目な脇役に撤すればいいのだ。料理とはそういう
> ものである。
> つゆを飲むことは,勿体なくて,私にはとてもできなかった。大豆の臭みを
> 完璧に消し去った高級醤油の香りが,湯気とともにそこはかとなく漂ってい
> る。上等な化学薬品を思わせるこの上品な香りこそは,人類の叡智と進歩の証
> なのである。
北の地でこそ、科学の勝利が実践されているのである。
> ホテルに戻って寝たところ,夜中にベッドの中で,このラーメンとの切ない
> 一時を思い出して,胸が恋い焦がれたのは言うまでもない。私のこの狂おしい
> 気持ちを少しでも押さえるには,サクロンという名の精神安定剤が必要だった
> ほどだ。
とんだ災難でしたね。
> 札幌は風営法も迷惑防止条例も通用しない,ウェスタンな街である。
風俗。結婚と恋愛が、カネなしに成立しないことを、拡大しているのが
性風俗である。(承認をえたまぐわいである結婚の、陰画。恋愛の売買可
能性の実行により婚姻を批判するもの、婚姻の打算性、貨幣媒介性の拡大
形態。というか、反貨幣的関係(愛・性)を媒介する貨幣の自己解体性。
裏システムの表システムへの滲出。愛と性が自由な人格性の属性であり物
件として認知されることができないがゆえに、風俗は表システムとしての
正当性を持ち得ない裏システムだが、承認放棄と引換えの裏承認の世界と
して存立する。しかしまた、自由な私事、貨幣による自由の拡大として、
干渉を排除する自由の世界。恋愛市場を補完する市場。性的弱者救済のセ
ーフティネット。)
薄野には立派な若者がたくさんおります。権力なんて目じゃありませぬ
。私たちが、ロビンソン百貨店に接する地下鉄すすきの駅の出口から左に
出ますと、この立派な若者たちが、薄野観光地図を片手に、笑顔で迎えて
くれます。世間一般の言葉では頭の悪そうなお兄さんと形容すべきこの若
者たちのことを、別名、ポン引きともいいます。かつて商談の成立の証に
ポンと手を打ち、客を引いたからです。彼等は、いいラーメン屋を教えて
と言えばつれていってくれる正義感あふれる立派な若者です。ただ、彼等
の親切なトーク、「今日はどちらですか。遊びですか。店はもう御決りで
すか。危ないのはこちらの通りです。安全なのはこちらです」という親切
なセールストークに乗りますと、飲屋なら、ビール1本2万円とか、風俗な
ら、脱がされて慾情している途中に、各種風俗トッピングの追加料金を取
られサービスもされずに終り、店から出ても、強面の店員が警察にたれこ
まないか着いてくる、そういうお店に連れていってくれるでしょう。――
彼等のトークに対して、ここで、おいおい、遊び目当の連中のために風俗
店を紹介するそんなボランティアいるのかあ?893さんよりお前らのほう
が危険じゃん、などと思う人は自分のひねくれぶりを反省すべきでしょう
。
ロビンソンの前のとおりに着けた車から、「すすきのに危ない通りはあ
りません*。安全な店はこちらですといって案内する人は皆ぼったくりで
す」とスピーカーから流している横で、この立派な若造どもは佇んでおり
ます。見上げた精神といわねばなりません。東急インの裏のほうでは、街
頭スピーカーから、「こちらは中央警察署です。最近、悪質な客引による
被害が増えています。…」と流されているその下で、先輩客引が、新人の
指導をしております。
* ほんとです。私はすすきのでボッタ繰られた事はありません(という
か各種優良店というやつも無限にボッタくりに近い)。むかーし、私は歌
舞伎町でセーラー服も馨しきお嬢さんにつれられて入ったセーラーパブが
、入るや、店内真暗、料金が5万円単位、なので、1万円払って出てきた
ことがあります。据膳は食うべからず。上手い話は乗るべからす。逆ナン
パは疑え。消費者問題の基本テーゼです。街は実地の経済学の研究場でご
ざいます。
>そんな
> 街だからこそこういうワイルドな味が生まれた
国家権力なんて当てにしないさ。自由な開拓精神よ。これが、すすきの
の心意気です。
(…と書いて、逆に、江戸文化の継承地ではないかという気もしてきた
。なぜなら、警察は、特定民間人を自分の手下にして、風俗産業にスパイ
を送りこみ、贈与をもってこないと、児童福祉法違反やら、何やらの名目
で摘発するし、民間は、相互密告体制があって、ライバル店を陥れる力の
均衡で成立っているからです。風俗店というのは、法律の建前では、性的
な行為の売買はないことになっている(例えばソープなら保健所の検査の
日には衛星器具等はすべて隠し風呂屋に成りすます)が、実際はそうでな
いことを誰もが知っている世界だから、こういう関係が成立しやすいので
しょう)。
今井さん、次号を待ってます。